ガンの補完医療としての鍼灸を紹介している新聞記事

がん補完医療 広がる
~はり・きゅうで副作用緩和~

日本のがん患者の2人に1人は、伝統的なはり・きゅう治療や健康食品などを取り入れる補完代替医療(CAM=Complementary and Alternative Medicine)を利用していると言われる。だが、健康食品について科学的な根拠はまだなく、効果や安全性を検証しようという動きがある。相談にのる外来窓口を開設する病院も出てきた。

国立がんセンター中央病院では20年前から入院・外来患者を対象に、はり・きゅう治療をしている。
同病院の一室。もぐさの香りが漂うなか、鍼灸師の鈴木春子さんが、女性患者の腕や腹に、すっすっと、はりをなでるようにうつ。治療を受けているのは、乳がん治療のため、同病院に通院している女性だ。
「以前は薬の副作用で、肩から指先までしびれや痛みがあった。でも、はり治療を受けて、痛みは半分以下になりました」
がん専門病院で、このような治療を取り入れているところはほとんどない。同病院でも開始当初は、医師らの理解を得るのが難しかった。99年に緩和医療支援チームができてからは、同チーム内に位置づけられ、主治医との連携もスムーズになったという。
鈴木さんは「医師も効果を認めてくれるようになったのか、相談を受けることが多くなりました」。副作用による吐き気や、寝たきりの人の筋肉の痛みの緩和などにも対応できるという。
同チーム管理者の下山直人手術部長は「痛みに対しては、モルヒネなどと併用すると効果が高い。抗がん剤によるしびれの副作用に対しては、西洋医学は今のところほとんど無力。患者さんの苦痛を和らげるのに、薬と併用するはりの役割は大きい」と話す。
はりの有効性については海外でも様々な検証がされている。
米国のがん専門病院や医師わが加わる「国際統合がん学会」(SIO)は昨年、「がんの統合医療に関するガイドライン」を発表した。統合医療とは、補完代替医療と現代西洋医療を組み合わせること。ガイドラインで、はりは痛みのコントロール、放射線治療による口の渇き、吐き気に対する補完医療として推奨されている。
下山さんらも国内でのデータを集めるため、早ければ5月から、はりの効果について臨床研究を開始する予定だ。

2008年(平成20年)3月30日 朝刊 朝日新聞より

がん治療のつらさ 和らぐ

太陽が照りつける焼けた砂浜を素足で歩くような、しびれや痛み。東京都江戸川区の小田住昭子さん(65)は、乳がんの抗がん剤治療を終えた後も、副作用に悩まされ続けた。
2008年3月、国立がん研究センター中央病院(東京・築地)で、右乳房の一部を切除。手術の前に、がんを小さくする目的で、タキソール(一般名パクリタキセル)などによる抗がん剤治療を受けた。

タキソールは乳がん治療でよく使われる抗がん剤で、手や足のしびれや痛みの副作用を伴いやすい。いったん症状が出ると、治療をやめた後も続くことが多いのがやっかいだ。
小田住さんは治療を始めて間もなく、指先や足の裏にしびれや痛みが起きた。手術を終えて退院した後も症状は改善するどころか、次第に手足全体に広がった。ロボットのようにぎこちない歩き方になり、ペンを持つのも一苦労だった。
09年2月、がんの痛みを和らげる治療を行う同病院緩和医療科を受診した。同科では、薬では十分に緩和できない症状に針きゅうを併用しており、小田住さんも受けることになった。
抵抗力が落ちているがん患者への感染の危険性を考え、同科では、針を刺さずに、皮膚の上をなでたりこすったりする「接触針」という方法を用いる。担当の針きゅう師鈴木春子さんは、「体調を整え、つらい症状を和らげるのが目的。優しいはりでリラックスしてもらう」と話す。
小田住さんは、「おきゅうのもぐさの香りと、おなか全体がじわっと温かくなっていく感じがとても気持ちいい」と話す。治療を始めてしばらくすると、痛みやしびれの範囲が狭まってきた。今は症状は多少残っているが、「階段も手すりなしで大丈夫。指も動きやすくなり手芸も書道も楽しめる」と笑顔をみせる。
同病院緩和医療科長の的場元弘さんによると、がんの肺転移や胸に水がたまる息苦しさ、リンパ節転移によるむくみ、モルヒネの副作用による便秘、寝たきりでの筋肉痛など、薬による治療が難しい場合、針きゅう治療を取り入れている。
的場さんは、「西洋医学では医療機器の進歩もあって、患者の体に直接触れる行為が失われがち。針きゅう治療の、手で患者の体に触れる、なでるといった行為そのものが、患者にとって癒しになっている一面もあるのでしょう」と話している。

2010年(平成22年)11月4日 朝刊 讀賣新聞より

米医学界がハリ認知
~治療費支払い 保険でと勧告~

米国立衛生研究所(NIH)の専門家委員会は5日、中国伝統のハリ治療が、手術後の痛みや抗がん剤投与に伴う吐き気などの治療に有効であり、医療保険でカバーすべきだとする報告書をまとめた。西洋医学を基本とする米国の医学界が初めて東洋のハリ治療を認知した。しかし、ハリの理論的根拠となる「気」の存在については「分からなかった」としている。
委員会が有効性を確認したのは、手術や歯科治療後の痛みの除去と、がんの化学療法や妊娠に伴う吐き気の治療。こうした対象に限定して、ハリ治療の医療費を保険で支払うべきだと勧告した。
また、麻薬中毒や頭痛、生理痛、筋肉痛、テニスひじ、腰痛、ぜんそくの治療や脳卒中リハビリなどに役立つ可能性が示唆された。ハリがなぜ効くのかについて報告書は、人体のツボにハリを刺すことで、鎮静作用を持つ生体内化学物質の放出が増えるためと推定した。
米国では1972年のニクソン訪中をキッカケにハリが盛んになった。現在、約1000万人が米国内でハリ治療を受けているとみられる。
伝統的なハリ理論は、人体内を流れる「気」と呼ばれるエネルギーで病気や治療を説明する。気にも委員会メンバーは重大な関心を持ったが、気の有無にかかわる証拠は何も発見できなかったという。メンバーの一人は「気が存在しようがしまいが(治療には)関係ない」と、米国流の現実的な見方を示している。

1997年(平成9年)11月6日 夕刊 毎日新聞より

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